人が惹きこまれるポイントは差、ズレ、意外性、孫子の兵法の奇正について

人が面白いとか、惹かれるとか、気になるとか、とにかく感情を動かされる時には自分が考えている何かと、そこで見たり聞いたりしているものの間に何らかのズレが生じていると思っています。

孫子の勢編という箇所に、奇と正の話が出てきます。私が持っている、浅野祐一先生の孫子 (講談社学術文庫)に書いてあった、奇と正の説明がとても印象に残っており、いつまでも忘れないので今回の題材にしました。
孫子は、戦う上では正法をもって敵と対峙し、奇法をもって勝つとしています。
奇は奇襲や奇策、正は正攻法というイメージがありますが、私の持っている孫子では、正が普通の状態で、奇は普通じゃない状態という解釈です。
いま、24時間営業が見直され始めていますが、かつてどんな店でも夜寝る時間には閉まっていると言うのが普通の状態(正の状態)でした。そこに、24時間いつでも店が開いているという普通じゃない状態(奇の状態)が生まれます。
当初、24時間店舗が開いているのは珍しく、深夜に活動している層を捉えることによって24時間開けていない店に対して優位性を持っていました。
ところが、いまや24時間営業はコンビニやファミレスでは当たり前の状態になっています(奇から正に移行)。この結果、無理して24時間開けても採算が取れず、24時間開けないことが有効になってきています(かつての正が奇となっている状態)。
物語についても同じ事が言えると思います。最近で行くと、転生してファンタジーの世界に入り込んでしまった系のライトノベルがたくさん出版されています。
無職転生 - 異世界行ったら本気だす -や、転生したらスライムだった件、Re:ゼロから始める異世界生活などなど。
これらは、従来のファンタジー小説の在り方がファンタジーの世界でありながらリアルさを求めるのが正であったのに対して、ファンタジーテイストのオンラインRPGの世界をそのまま小説にしてしまっており、ゲームのプレイ日記のような内容になっています。ゲームのプレイ日記をそのまま小説にしたら面白かったという奇の状態です。
それもやがて、多くの類似作品が出るにつれて読者が飽きはじめると思います(奇が正へ転じる)。そうなった時には硬派なファンタジー小説が今度は新たな奇として現れ、正と奇が逆転した状態になるのではないでしょうか。
孫子は、このことを「凡そ戦いは、正を以て合い、奇を以て勝つ。故に善く奇を出だす者は、窮まり無きこと天地の如く、竭きざること江河の如し。」と表現しています。
差やズレという奇の状態は生まれた瞬間から当たり前という正の状態に向かって動き始めるので、物語の流れも、導入部分でまず奇の状態を作り出し、奇が正に転じる頃を見計らって別の奇を生み出すような内容であれば読者が飽きずに読んでくれるのではないかと思います。

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