八甲田山雪中行軍遭難事件。事実は小説よりも奇なり(ルートマップ有)

実話を装うことで物語のリアリティを出す

もともと、小説と言うのは実話と勘違いさせるような演出をすることによってリアリティを出していたそうです。

例えば老人が昔話を始める所から始まるなど、最初に現在の表現があり、過去に実際に起こったかのように物語が始まり、最後に現在に戻って終わるような表現です。

実話の力でわざとらしさが無視される「八甲田山雪中行軍遭難事件」

実話というのは時にそれだけで作り話の細かな仕掛けを吹き飛ばしてしまうような迫力があります。確か出張の移動時間に読もうと思って買った本だったとおもいますが、「指揮官の決断」という本を読んで八甲田山の雪中行軍の話を知りました。

時は日露戦争前夜、軍事訓練で八甲田山を行軍した約200名の歩兵連隊が遭難しほぼ全滅してしまったという話です。事故当日は、はるか昔であるにもかかわらず、いまだに記録を破られていない観測史上最低気温を記録した日。

この話を創作したものとして考えた場合、「軍事訓練でそんなことになるわけないっていうか、軍事訓練で全滅とかそんな話何が面白いの?」とか、「たまたま観測史上最低とかご都合主義過ぎだろ」とか、突っ込みどころ満載です。

しかも、この話はそれだけにとどまりません。同日、40名弱の別の部隊が別ルートで八甲田山に挑み、なんとこちらは一人の死者も出さずに踏破していたのです。

それぞれのルート(かなりおおざっぱですが)はこちら。

赤い線が遭難した部隊のルート。青い線が踏破した部隊のルートです。青い線の部隊はJのポイントから南東方向へ向かい、ぐるっと回って同じJのポイントに戻ってきています(11泊12日の行程)。赤い線の部隊はAのポイントからスタートし、Bのポイントで遭難しました。予定では1泊2日でBのポイントのちょっと先まで行って引き返す予定だったようです。

地獄を潜り抜けて生き残った約200名の部隊の生還者が主人公でも、この40名弱の別部隊の隊長が主人公でも十分ドラマチックな物語になりそうです。それもこれも、「実話」の圧倒的な迫力で、創作だとありえないと一蹴されてしまいそうな設定に重みを与えています。

実際、この話は小説や映画、ドラマになっています。

詳細部分は当事者のみぞ知るため創作の世界

そこで何があったのかについて、生還者の言葉や記録等によりある程度のことはわかるようですが、詳細については想像するしかありません。ただ、深夜眠ることもできない極寒のなか、約200名の部隊は進軍と帰営の間で右往左往し、いたずらに体力を消耗した挙句完全に道を見失い、次々に凍死者を出したこと。他方で40名弱のほうは雪穴を掘り体力を温存していたこと。約200名の部隊のわずかな生還者は雪国出身で耐寒の策を講じていたことなどは確かなようです。

皮肉なことに、この事件で耐寒装備の重要性がクローズアップされ、日露戦争時の耐寒装備の充実につながったとのことです。

実話をベースにした創作というのは、実話のリアリティを借りることができ、有効なアイデアになりやすいと思います。

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