三島由紀夫先生の「命売ります」の構成【ネタバレ注意】その4

「命売ります」の構成分析シリーズ最終回

三島由紀夫先生の「命売ります」いよいよ三幕目の構成について分析させていただきます。前回の記事はこちら。最初の記事はこちら

恋人のような女性から逃げる機会をうかがう

お互いいつ死んでも悔いは無い、死を恐れないというカップルだった主人公と玲子でしたが、玲子が毒を盛ったことにより、二人の信頼関係は崩れ、玲子は主人公が逃げ出さないように監視し、主人公は玲子から逃げるチャンスを窺います。

構成としては、すでに死の恐怖から逃れるモードになっており、主人公の精神はかつてのような悠々としたものではなく、小さくちぢこまってしまっています。

玲子の先天性梅毒は狂言か真実か

玲子は先天性梅毒と思い込み、セックスをすれば他人に梅毒をうつしてしまうと思っており、自信もいつかは梅毒に侵されてキチガイになってしまうと思い込んでいます。

玲子は実際に、主人公が心中を拒否したのち、ちょっと気が触れたような感じで主人公を監視します。また、主人公も玲子から上手く逃れた後、たびたび頭がおかしくなったような感覚の描写がされることがあり、先天性梅毒はただの妄想だという話が、もしかしたら本当なのではないかと疑ってしまいました。

結局最後まで本当のところはどうなのか明かしませんが、そういうふうに読者に疑いを抱かせる演出というのも、物語に人を惹き込む上で重要かと思います。

逃げた先で暫く暮らすもACSに捕まる

事前にハッタリの道具を準備しているものの、油断した隙にACSのメンバーに捕まってしまいます。ここで、これまでの物語の種明かしがされます。最初の女はいずれ始末が必要だったので、主人公とのことを機に殺されたとか、二番目の女はACSの手先だったとか、主人公を警察関係者だと考え、ずっと追いかけていたとか。

その後、主人公は殺されそうになりますが時限爆弾を模した箱でハッタリをかまして隙を見て逃げ出します。

警察に保護を求めるも信じてもらえず

逃げた先で交番に駆け込みますが、警察からするとどこにでもいるキチガイの一人にしか見えず、交番の警官が本署に引き取ってもらおうとする間、平凡な家庭の父親としての話をしますが、それが主人公の状況の異常さをさらに際立たせます。

最後は殺されかけているのに路上に放り出されます。命を売っていた男の姿は見る影もなく、死への恐怖に打ちひしがれている描写でこの物語は終わります。

 

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